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メダル授与隊の襲撃

コンビニで買い物をして外に出たところで彼らが待ちかまえていました。
「これから表彰式を行います」タキシード姿の5名の団体が私を取り囲み、勝手に何かの儀式を始めようとしていました。
一人がメガホンを取り出し、至近距離でわめき立てました。
「主文! 貴殿がコンビニを出るとき、背後の女性のためにドアを押さえてあげました。貴殿の他人への気配りは現代社会にこそ必要なものです」
どうやら私がおこなったごく当たり前のマナーについて称えているようですが、「主文」というのは?
「主文! 貴殿の気配りに対し、その女性は礼も言わず、当然のように去っていきました!」
そして既に数十メートル先に遠ざかっているその女性の方にメガホンを向けると、さらにボリュームをあげてわめき散らしました。
「おい! お前は何様だ! クソ女! 礼くらい言え! ブス! ヤリマンが!」
いくらなんでも言い過ぎただろうと思いましたが、メガホン男は満足したらしく、目を閉じて首を左右に動かしながら感慨に耽っていました。
「失礼しました。続けます。主文! あなたのジェントルマンな行為を称えて、これよりメダルの授与を行います!」
白い手袋をはめてトレイを持った男がなぜか10メートルほど先に立っており、メガホン男が合図すると、見るからにチープなおもちゃのメダルをうやうやしく運んできました。緊張しているのか、動きがギクシャクしています。案の定、私の目前で足をもつれさせて転倒し、メダルが飛んでいきました。
メガホン男は横目で私の反応をうかがっており、全くウケてないとみると、「君! そういうのいいから!」と叱りつけました。
こんな茶番に付き合っていられませんが、周囲を取り囲まれているので逃げ出せません。
別の男がメダルを拾い、私の首にかけると全員で拍手喝采を浴びせ、自己満足な感動のシーンを演出しました。
式典を終えたメダル授与隊が立ち去ろうとすると、さきほどの女性が戻ってきました。ほんの数メートル先でうつむいて立っています。
「世の中捨てたもんじゃありません。お礼を言いに戻ってきたようです」メガホン男が言いました。
「さきほどは罵声を浴びせて申し訳なかった。さあどうぞ、お礼の言葉を」
「チッ」女は大きく舌打ちし、大きなショルダーバッグの中に手を突っ込んで何かを探し始めました。金属がぶつかり合う音が聞こえました。
「おや? 反省して戻ったのではないのですか? 親切に対してお礼も言わない感じの悪いあなたのせいで、この男性は二度と他人に親切を施すことがなくなってしまうかも知れないのですよ」
女は再び「チッ」と舌打ちし、ドライヤーのような物体を取り出して先端をコンクリートの地面に打ち付けました。ドライヤーではなく電気ドリルでした。女はスイッチを入れ、地面を掘削し始めました。家庭用の機材ですからコンクリートに穴をあけるパワーはありません。それでも、ガリガリと響く掘削音に連動して全身を振動させる女の様子は我々に恐怖感を与えるに充分でした。
女は舌打ちしながら掘削を続け、我々は少しずつ後ずさりしながら逃走を図るのでした。


メダル 「ヴィクトリー」 金



RYOBI ドライバドリル CDD-1020
by kikoushou | 2013-06-19 14:54 | ◉奇行事件簿
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